「・・・これでけりはついた。幾らお前でもあの量の『黒鳳』を受けて、生きている訳が無いからな・・・安心して消えるが良い志貴、お前の後釜は俺が・・・!!!」

そこまで宣言したが急激に志貴の表情が一変し間合いを取った。

「・・・はははは・・・」

それと同時だろうか?そんな小さな笑いを浮かべてゆらりと志貴が立ち上がった。

貴様・・・どうやって・・・

「・・・この二本にな・・・」

そう言うと志貴は手に持つ『凶断』・『凶薙』を掲げる。

・・・ちっ・・・そう言う事か・・・

「そう言う事だ、別にこの二本の能力が攻撃だけと決まっている訳じゃないからな」

そんな意味不明な会話を理解できたのは当事者同士と

「なるほどな、志貴も考えたな」

「ほほう・・・中々やるのう」

かつて片割れの『凶薙』を手にした事のある鳳明、そして悪夢の志貴を事実上操る籠庵だけであった。

「へっ?何?何なの?」

「どう言う事ですか?」

「まあ、兄さんが無事と言うのは喜ばしいけど・・・」

「ね、姉さん・・・わかる?」

「あ、あは〜」

「??????」

「よ、予測できない・・・」

「鳳明様・・・一体、兄様達は何を仰っているのでしょうか?」

残りの面々はまったく理解出来なかった。

「要するにだ、志貴は『黒鳳』を受ける直前、自分の身に薄い妖力の幕を張って防御したんだ。それで致命傷は回避したんだが・・・いかんせん受けた数が多過ぎる。後一発でも同じものを受ければ間違い無く志貴は死ぬ」

「「「「「「「「そんなっ!!!!」」」」」」」」

鳳明の残酷な宣言に続くように志貴は瀕死の志貴に冷笑を浴びせる。

そう言う事だ。志貴この状態で立ち上がったのは褒めてやるが、それで俺が勝てると?

しかし、それに対する志貴の返答は驚くほど挑戦的なものだった。

「ああ、勝てるさ」

「!!」

「貴様の『黒鳳』じゃあ俺を殺せない」

そう言いながら、志貴は二本の妖刀を鞘に収め代わりに『七つ夜』を構える。

??・・・なるほど・・・『鳳凰』か・・・確かに今の貴様にはそれしか勝ち目は無いだろうがな・・・しかし、『鳳凰』の最大の弱点、お前も把握済みと思っていたんだが・・・

「・・・わかっているさ・・・」

それを聞いたアルクェイド達が

「ねえねえ、鳳明」

「『鳳凰』とは七夜君が最初の『凶夜の遺産』の時に出した鳥の様な形をした具現化能力の事ですか?」

「ああ、そうだ。今の志貴にとっては『直死の魔眼』に匹敵する切り札だ」

「そんなものに弱点があるのですか?」

「『鳳凰』はその絶大なる破壊力と引き換えに『凶断』・『凶薙』に込められた力を全て消費する」

「つまり、兄様は『鳳凰』を一回しか使えないのです。それに、今までの戦いでかなりの力を消耗しています。それを回復させるにはあの鞘でもかなりの時間がかかってしまいます」

「・・・その間どうやってあの猛攻を凌ぎきる気だ?・・・志貴」

最後の鳳明の言葉は殆ど独白であった。

・・・ふふふ・・・随分となめた口を叩くな・・・いいだろう志貴!貴様をもう一度・・・そして今度は永久に逃れえぬ地獄に叩き込んでやる!!

そう叫ぶと志貴は再びあの漆黒の鳳凰にその身を変じさせ、志貴に襲い掛かる。

「・・・勝負だな・・・」

しかし・・・その志貴の呟きを聞いた者は誰もいなかった。







襲い来る、『黒鳳』を俺は手にしたナイフで軽くなぞらせつつ、紙一重でかわす。

最初はあの速度に戸惑ったが眼が慣れるに従い、かわすのも大分容易になって来た。

様はあの志貴はただ力を放出しているだけだ。

効率的に、力を発動していないし何よりも

(無駄に力を発散させすぎている・・・)

破壊力が一点・・・つまり俺に集中していない。

これでは破壊力は『竜帝咆哮』を少し強くした位だ。

無駄使いにも程がある。

それにしても・・・

もう、瀕死の体にもかかわらず、今の俺の感覚は冴え渡り、今の俺にならどんなに細く、小さい線も点も通す事が出来ると確信していた。

そして今ならこの技も出来ると・・・

(大分動きが荒くなってきた)

もう、十回以上俺は『黒鳳』の猛攻をかわしきる俺に奴もかなり苛立っている。

旋回すると、再び俺に標的を整えると猛スピードで俺に突っ込む。

しかし・・・

(準備は出来た)

力も回復し、下準備を整った。

後は仕上げのみ。

「・・・我流・・・」

まさに、直撃を受ける寸前に俺はそれをかわす。

「・・・七夜・・・」

そして漆黒の鳳凰の頭の部分に存在する点を貫く、そしてそれと同時に

「・・・影殺(えいさつ)・・・」

今まで通しかけた線を七つ、同時に完全に通す。

その途端、黒き妖力は羽衣の様に削ぎ落とされ、本体のあいつが姿を現す。

な、何!!!

「・・・お前の負けだ。そして、最期に見せてやるよ」

ナイフをベルトに挟み込み、『凶断』・『凶薙』を抜刀する。

「こいつが・・・本物の・・・」

大きく左右に構え、跳躍する。

「・・・『鳳凰』だ・・・」

俺の体を真紅の光が包み込み、それはたちまちのうちに、鳳凰に変じた。

「くっ!!」

あいつも体勢を整えようとするがその瞬間には俺の『鳳凰』は、一片残さずこの世から抹消していた。

俺はその後も勢いを衰えさせず、遂には影絵の町の夜景の一点を・・・いや、籠庵の・・・『悪夢と婚姻せりし者への婚約指輪』の死を貫いた。

そして貫くと同時に俺は『鳳凰』を解除し、『凶断』・『凶薙』を機械的に納刀する。

それと同時に俺の意識は失われていた。







「やったぁぁぁぁぁぁ!」

「流石は私の七夜君です!!」

「兄さん・・・」

「し、志貴様・・・志貴様・・・」

「志貴さん・・・良かった・・・」

「・・・志貴さま・・・」

「良かった・・・志貴・・・」

「兄様・・・兄様ぁ・・・」

「・・・むうぅぅぅ・・・」

志貴が志貴を消滅させ、夜景を貫いた瞬間、アルクェイドから歓声があがり、籠庵の表情が曇り、片膝を突いた。

「??・・・そうか・・・志貴がお前の死を・・・」

「そのようじゃな・・・」

悟ったような表情で再び立ち上がると、不意にレンの方に振り向くと、

八妃の一人夢魔よ、残りの七妃を連れて結界より脱出せよ。間も無くこの結界は崩壊する」

「!!!」

レンが慌てて頷くが

「えっ!」

「な、七夜君はどうするのですか!!」

「心配は要らぬ。わしが責任を持って元の世界に送り届ける」

「それよりも!一体何よ!!そのはち・・・」

アルクェイドがそう言おうとした瞬間レンを含めた八人が姿を消した。

それを見届けると、籠庵と鳳明は志貴の所に向かう。

既に影絵の町は姿を消していた。

「志貴!!!・・・ふう、大丈夫か・・・気絶してるだけだ」

「それはそうじゃろう。あれほどの死闘じゃ、気を失ってもおかしくは無い」

「で、籠庵、志貴をどうする気だ?」

「案ずるな鳳明、『八妃』との約束通り元の世界に返す」

「籠庵、なんだ?その八妃とは?」

「いずれわかる。・・・これでわしも全てを完遂させた。もう未練は無い」

「おい!!それは・・・」

鳳明の言葉にかぶさる様に地震の様な地響きが響き渡る。

「!!・・・ちっ崩壊か・・・」

「その様じゃな・・・ではそなた達も・・・」

「籠庵!!お前は!!」

「わしはあと少し彼の者に話がある故にな」

その言葉と共に志貴・鳳明・籠庵は姿を消し、暗黒の世界は無へと変貌していった。







「志貴!!おい!志貴!!」

鳳明さんが俺に呼び掛けて来る。

眼を開けると、そこは例の美術館で俺はうつ伏せで倒れていた。

「・・・起きてますよ鳳明さん・・・ただ体は動かせそうにありませんけど」

「夢の闘いの影響か?」

「はい、体中痛くて・・・動こうにも動けないんです・・・それよりも他の皆は?」

「大丈夫だレンが脱出させた。もう直ぐ眼を覚ます」

「志貴さま・・・」

「ああ、レンか・・・ありがとうな・・・お前のお陰で助かったよ。皆も無事だったし」

「・・・・・・」

レンはほんのりと頬を紅く染めて俺を心配そうに見る。

しかし、直ぐに喧騒が戻ってきた。

「志貴ぃ〜」

「!!!」

アルクェイドが俺に飛びつく。

しかし、こ、この馬鹿女・・・俺が夢の中で瀕死の重傷を負ったのを忘れてやがる・・・

「こ〜〜〜のアーパー吸血鬼!!七夜君に何抱き付いているんですか〜〜〜!!!」

「そうです!!!兄さんにその様な事をしても良いのは私だけです!!!」

「志貴様ご無事ですか!!」

「志貴さん大丈夫ですか?」

「あ、あのアルクェイドさん、兄様から離れて下さい」

「沙貴の言う通りです。アルクェイド・ブリュンスタット、志貴が苦しんでいます」

「ええ〜〜〜なんでよ〜」

「忘れたのか?志貴は夢の闘いで重傷を負ったんだ。その影響は生身にも及んでいる。今の志貴は全身打撲といった所だろう」

「そう言う事ですからさっさと離れなさい!!!」

先輩がようやくアルクェイドを引き離す。

「ぶーぶー」

「さて、こっちは放っておいて、志貴動け・・・そうに無いな」

「む、無茶は言わないで・・・」

「・・・七夜志貴よ・・・」

「!!!」

突如聞こえた声に俺は咄嗟に飛び起きる。

全身に激痛が走るがそれに構わず、それを凝視する。

ひびの入る遺産『悪夢と婚姻せりし者への婚約指輪』と、その上に浮かぶ七夜籠庵の姿を・・・

「・・・見事、まことに見事じゃった」

「くっ・・・敵に言われても嬉しくねえよ・・・」

「それも道理じゃな。わしの使命もこれで全うした。これで元の場所に戻れる」

「まて、籠庵。『元の場所』とはどういう意味だ?それにお前たち『凶夜の遺産』の真の目的は何なんだ?一体何の意味がある?」

「愚問じゃな。鳳明、我らが目指すは復讐の成就に他ならぬ。その為に七夜志貴よ、お主には更なる高みを目指してもらわねば困るのじゃよ」

「・・・貴様、何処まで知っている?この眼の事を」

「全てと言えば良いか?」

「!!!」

「お主の体内において深き深き眠りにつく至高の力、それの事も・・・」

「言うな!!!」

「無駄じゃよ。どれだけ否定しようともお主には運命に逆らう術も道も無い・・・その力を更なる高みに目指す以外には・・・さて、別れの時が来たようじゃな。全ては『神』の御為に・・・この身を捧げん!!」

その瞬間指輪は木っ端微塵に砕け散り七夜籠庵はこの世より消滅した。

それと同時に緊張の糸が切れたのだろう。

全身に激痛がぶり返し、そのまま、意識が消滅していった。







(・・・とに宜しいのですか?)

(ああ・・・)

またか・・・俺は再びどこかの空気と一体化していた。

そこは洞窟の中、そこに一人の青年と一人の老人が佇んでいた。

(ここに・・・を封じたといえ、災が消える訳ではありません。・・・やがては一族に大いなる災いが降り注ぐでしょう)

(覚悟の上・・・と言いたい所であるが、それが始まりしは遥かなる未来であろう)

(仰せの通り)

(ならば俺もその業、全てを背負い輪廻に入るとしよう)

(な!!正気ですか!!それを行えば・・・貴方様の魂は薄れ消えて・・・)

(全て覚悟の上だ。俺は・・・あいつを殺す事など出来ぬ。たとえ周囲から甘いと罵られ様とも・・・これは俺が俺自身に科す罪の清算だ。それに子孫に業を押し付け、俺一人が全てを放棄する訳には行くまい・・・)

(で、ですが・・・)

しばし無言の時が過ぎた。

やがて、老人が

(それに・・・それに、奥方様方はどうなさるおつもりで)

(あいつには・・・あいつ等には自由にその身を処させる)

(!!!し、しかし・・・七夜様!!お待ちを!!)

(それに・・・俺も長くは無いからな・・・許せ・・・)

その言葉と共に俺は意識は再び消えていく・・・







「・・・あれ?ここは・・・」

「気が付いたか・・・」

「・・・鳳明さん・・・ここは?」

「カイロ市内の病院だ。あの後お前が失神した為に全員が大慌てでここに運び込んだんだ」

「そうですか・・・で、俺の怪我の状態は?」

「医者の話だと全身打撲だが、それほど重症でもないらしい三日安静にしていれば治ると言う事だ」

「それは幸いですね」

周辺はすっかり暗くなりもう夜になっている事が一目瞭然だった。

「それで皆は?」

「時間も時間だからホテルで休んで貰っている」

それから俺と鳳明さんは自然に無口になった。

「・・・それにしても・・・」

「??どうかしましたか?」

「籠庵が言っていたが、『ワラキアの夜』を生み出す一因となった第六法が『凶夜』の魂を遺産とした神だったと・・・」

「えっ!あ、あの『ワラキアの夜』を?」

「ああ、そして、籠庵の夢の創造の能力を応用したのが」

「噂による他者に依存した永遠・・・」

「ああ・・・それと籠庵は後もう一つ妙な事も言っていた。アルクェイド達八人を『八妃』と呼んでいた・・・」

「八妃??まさか籠庵は俺がアルクェイド達全員と、結婚しているとでも思っていたと?」

「さあな・・・しかし、何か関係があるだろうな・・・『凶夜の遺産』が志貴にこだわる理由と同じ様に・・・」

「・・・」

それ以降俺達は揃って無言を貫いていた。

「もう寝ろ・・・志貴明日は大変だぞ、アルクェイド達、『八妃』の事をお前に聞くと一部は頭に血が上っていたからな」

「は、はははははは・・・俺に聞かれても困るんだが・・・」

俺は乾いた笑いを零さずに入られなかった。

頭の中では乱闘の影響を受け崩壊する病院が眼に映っていた。

「まあ、寝ろ。英気を養わないとな・・・」

「はい・・・まだ遺産は三つあるんですから・・・」

「そう言う事だ」

俺達は静かにそう言うと鳳明さんは俺の中に入り、俺は静かに眠りに付いた。







翌日は鳳明さんの予告通り大変な事になった。

朝の早くから、いきなり八人全員押し掛けて来たのだ。

「さあ志貴!!!話してもらうわよ!!」

「七夜君!!『八妃』と言うのはどう言う事ですか!!」

「兄さん!!!兄さんの正式な妻は私だけでしょう!!」

最も、ヒートアップしていたのは予想通りこの三人であったが・・・

残り五人はと言うと・・・

「し、志貴様・・・私・・・志貴様の奥様に・・・」

翡翠は湯気が出てもおかしくないほど顔を真っ赤にさせ、

「あは〜志貴さんって本当に欲張りですよね〜。一人と言わず全員独占しちゃうんですか〜」

琥珀さんはいつもより数倍嬉しそうな笑顔でさり気なくすごい事言っているし、

「・・・・(じぃぃぃぃーーーーーー)・・・・ぽっ」

レンは俺をただひたすらじっと見て俺と視線が合うたび顔を真っ赤にしている。

し、志貴・・・と・・・結婚・・・志貴と結婚・・・志貴と結婚・・・志貴と・・・

シオンに至っては俺の顔を凝視しながら、ぶつぶつと呟いている。

「に、兄様・・・私良き正室となりますから・・・いえ、側室でも充分・・・子供は・・・」

沙貴に関してはもう俺との結婚は確定事項らしい。

未来設計までしている様だ。

この様に八人とも完全にいってしまっていた・・・

(鳳明さん・・・どうしましょうか?)

(どうすることも出来んな)

俺達は揃って溜息を吐く事しか出来なかった。

ちなみにこの口論は俺の入院していた間ずっと続いた・・・







入院生活も終わり、退院した俺は崩壊せずに済んだ病院を安堵を込めて空港のロビーから見ていた。

極めて幸いな事に、入院中皆口論こそするが、暴れる事は一切せず、一応快適な生活を送る事が出来た。

まあ、その間他の患者に嫉妬と殺意に満ちた視線で見られたのは忘れるとしよう。

何しろ今それ所じゃない騒ぎが空港で起こっているから・・・

「それで何故貴女が付いて来ると言うのですか?シオン・エルトナム・アトラシア」

そう、俺達が日本に帰ろうとする時何故かシオンは旅支度をして俺達を待っていた。

それ対しての先輩の詰問に対して一方のシオンは涼しい顔で

「決まっています。私も『凶夜の遺産』の退治に協力する為にここにいます」

その言葉に早速噛み付いたのは秋葉だった。

「どう言う事?あなたは私達じゃあ兄さんの力になれないと?」

「そうではありません秋葉。志貴は二年前私の協力の要請に無償で応じてくれたばかりか、タタリを滅ぼしてくれました。いわば私には志貴に対して大きい恩があります。それを返すだけの事です。それに大切な友人を助ける事に理由が必要なのでしょうか?」

「ふ〜んそんな事があったんだ〜」

何気に俺の周囲の空気が冷え冷えとし始めた。

「それに人数は多い方が有利なのは全てにおいての鉄則ではないでしょうか?」

「で、ですが・・・」

更に言い募ろうとした先輩と秋葉を沙貴が制した。

「お待ち下さい、皆さん。シオンさんの言う通りです。今回でおわかり頂いたと思いますが、『凶夜の遺産』は皆さんの想像を遥かに超えた能力者だらけです。こちらとしても少しでも有利とする為にはシオンさんにもご協力していただいた方が良いです。なにより、ここで協力を拒んで兄様に何かあれば後悔するのは私も含めた全員です」

沙貴の言葉に全員考え込む。

そこで俺は更に助け舟を出した。

「皆沙貴の言う通りだ。今まで現れた遺産『空間を繋げる館』・『時空を歪める像』・『悪夢と婚姻せりし者への婚約指輪』の能力は全て直接の攻撃ではない、補助的なものに過ぎなかった。それでも遺産となった事であそこまで強化された。そして、極めつけは『力の象徴』だ。あれに関しては所有者の能力を強化・応用の差があるが俺独りではどうしようも出来ない代物ばかりだった。これでもし次の遺産が直接の攻撃を可能とするなら・・・俺は皆を守りきる自信が無い」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

結局俺の台詞が決定打となりシオンは遠野家の客人として迎える事が決定された。

「・・・しかし・・・シオン」

「何ですか志貴?」

俺は搭乗する直前シオンの傍により小声で話しかけた。

「よくアトラスがシオンの事を黙認したな」

「ええ、説得は大変でした。それでも、真祖と行動を共に出来ると言う事、『蒼眼の黒鬼』の間に友好関係を築けると言う事、更にかのタタリを生み出した元である第六法の解明の糸口となると聞いて多少の不具合は眼を瞑る事にしたのでしょう」

何しろ第六法は全てにおいて謎とされる・・・存在すらも疑問視されていますからと、シオンは軽く笑った。

「それに吸血鬼化の進行は大丈夫なのか?」

「はい、今の所は。研究も少しづつですが進んでいますから、それも私自身にとって希望となっています。なによりも・・・」

と、シオンは頬を染めて俺を見る。

「??何よりもなんだ」

「い、いえ・・・こちらの話です。・・・まったく志貴は愚鈍だと聞いていましたがここまでとは・・・」

俺がそう聞くとシオンはそっぽを向いてしまった。

「そうか・・・しかし、俺はそんなに有名なのか?」

「志貴・・・貴方は本当に自覚が無いのですね」

そう言うとシオンは俺に白い眼を向ける。

「ううっ・・・」

「志貴、貴方は『直死の魔眼』と言う最終兵器に等しい魔眼と、最強の魔殺武具を所有し、更には超越種の真祖を篭絡しているんです。いわば世界は貴方の手の平に握られているようなものです。各組織は貴方の動向に神経を尖らせているんですよ。それでも協会やアトラスはまだ穏便な方です・・・志貴に実験台になって欲しいでしょうが・・・しかし、教会・・・殊に埋葬機関についてはいまだに志貴に敵意を持っています。隙と好機あらば志貴をいつでも断罪する用意が既に完成されていると言う未確認情報まであるんです。それも獅子身中の虫と言っても良い第七位を除いた状態で」

「俺としてはどうこうする気は無いんだが」

「はい、志貴は特に世界を支配とかする気は無いと言う事は私が良く知っています。ですが見る者が悪意・偏見を所有していれば見えるものも歪められます」

「なるほどそいつは道理だ」

シオンの言葉に俺はやや、後ろ向きな笑いを零した。

確かに、埋葬機関は俺が疲労困憊の時を狙い済ましたかのように襲撃するケースが多々ある。

更には遠野家を襲撃し翡翠達を人質に取る事すらあった。

流石にその時には完全に切れた俺は即日バチカンに乗り込み埋葬機関の組織機能を半年間停止にしたが・・・

しかし、そこまでしてまで俺を消したいという理由が俺には分からなかった。

「志貴・・・彼らの行動の裏には一種の危機意識が働いている為だと思います」

「危機意識?」

「はい、ここ数百年世界は表では白人を主とする欧州・米州の西方諸国が、裏では埋葬機関の理が地球全土を支配していきました。それによって世界中・・・特に南米・アジア・アフリカがどれほど苦しめられてきたか・・・特に宗教に関しては度を超すほどの弾圧を各地で行いました。それは歴史の授業で教わったと思いますが、それは裏の退魔組織でも行われたのです。埋葬機関は各地でその力を発揮し、魔を覆滅しましたが、それはその地区を伝統・事情を知らぬ彼等の独り善がりの行動でした。中にはその地方では守護神と呼ばれ尊ばれる魔もいましたから・・・ただそれでも今まではそんな蛮行も通用しました・・・志貴が現れるまでは」

そこで句切るとシオンは小さく溜息をついた。

「俺が現れるまでは?」

「はい。志貴が現れさらに埋葬機関すら断罪不可能であった筈の強大な魔・・・死徒二十七祖の内三人を滅ぼしました。それが、埋葬機関の横暴に苦しんできた各地の退魔組織の希望となると同時に埋葬機関の評価を落とす結果ともなったのです。前記の場合だと"埋葬機関でない者が強大な魔を覆滅した。彼に出来て我らに出来ぬ筈が無い"後記の場合だと、"今まで偉そうにしていたくせに、埋葬機関とはその程度の組織か"となったのです。これは埋葬機関にとっては大きな痛手となり、埋葬機関の強制に対してあからさまな拒否の姿勢すら出てきたと言います。その為、この被害が大きくなる前に志貴を消してしまえと言う乱暴な論理が出てしまったのです」

「・・・ふう・・・それで殺されたんじゃあたまったものじゃないな」

「まったくです」

会話が一区切りついた時だった。

「「「「「「「あーーーーー!!!」」」」」」」

他の七人から絶叫が上がった。

「ん?どうかしたのか?皆空港で大声出すと失礼だぞ」

「志貴!!なにそこの錬金術師と仲良くしてるのよ!!!」

「は?ちょっと待てアルクェイド、何処をどう見たら俺とシオンが仲良くしている様に見えるんだ?」

「ではそんなに体を密接しているのはどう言う理由でしょうか?」

「ああそれは先輩、色々情報をね」

「よほど聞かれたくない内容のようですね?兄さん・・・」

「そりゃそうだろうが秋葉。俺達の事なんて聞かれりゃ・・・あ」

この時俺は自分がとんでもない失言をした事に気が付いた。

「「「「「「「俺達の事ですか???」」」」」」」

次の瞬間俺はアルクェイド達七人に嫉妬のこもった猛攻を受ける羽目となった・・・










技解説

『我流七夜影殺』・・・

かつて志貴がアルクェイドを殺害した時に放った十七分割。

これを志貴は退魔師となってから磨きをかけ始めた。

その結果十七分割は二つの亜流の技を誕生させる。

一つが線を通す速さを極限まで追求した技『二十七分割』。

そして、もう一つが精密を究極まで追い求めて編み出されたこの技である。

本文中では中途半端に線を通してから発動させたが本来は前準備無しで線と点を全て切り裂く。

以前の志貴では通す線があまりに細い部分もあったため行使するのは困難であった。





後書き

   終わらせました、『夢の章』を。

   この後半、かなり宗教批判めいた事を書いていますが、ご了承を。

   まあ、歴史を見ればわかりますが、何でああ言った一神教と言うのは多様認めないのだろうか?

   まあ、それ故にあのような閉鎖的な組織が出来るんだなと納得もします。

   予定でしたら一気に四連戦と行こうと思っていたのですが次回は志貴に本格的な休養を取らせようかと。

   上手くいくかはわかりませんが。

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